「腹式呼吸で歌いましょう」はなぜ?プロトレーナーがメリット解説!

まず、歌を習うときには「腹式呼吸で歌いましょう」となるのですが、まずそこに疑問を感じてほしいのですよね。なんでって?

じゃあなんで歌うときに腹式じゃないとだめなのか、腹式呼吸以外にどんな呼吸があるのか、今自分は何呼吸で歌っているのかというのもまず理解しないと私は肚(はら)に落ちないと思っているのですよね。例えばですけど、ライヴをやります、人前で歌いますというときに本当の意味で腹式呼吸の大切さが理解できていれば、どこかで必ず思い直せるのです、緊張していても。でもそれが「歌の時には腹式呼吸で歌わないとな」というだけだとどこかでまぁいいかとなってしまうのです。そして、それがうまくなることにおいての弊害になると思っているのです。ちゃんと腹式呼吸を理解して歌うということが私が歌を教えるときのスタンスなので、まずそもそもなんで腹式呼吸でないといけないのかというところからお話したいと思います。

目次

「胸式呼吸」と「腹式呼吸」の呼吸の違いは?

呼吸は大きく分けて、「胸式呼吸」と「腹式呼吸」があります。

要は、肺のどこに息を入れて呼吸するかによって変わるということです。

腹式呼吸というのは肺の下部に息を入れて呼吸をします。胸式呼吸というのは肺の横っちょ、脇の方に息を入れて呼吸をするのです。

これは余談ですが、男性と女性ではどちらの方が腹式呼吸の人が多いと思いますか?

実は女性のほとんどの方が胸式呼吸なのです。

これはなぜかというと腹式呼吸は肺の下部を膨らませるので、肺の下の内臓が下がるのですね。そして息を吐いたらまた戻る。女性は生まれ持って子供を産むという機能がありますので子宮というものが存在します。これは男性にはありません。

そして大事な子宮をどうやって守るかというと脂肪で守るのです。

だから女性のほうが皮下脂肪が付きやすいとなるのですね。できれば動かしたくないのですよ。

なので女性はできるだけ胸の横に息をいれる胸式呼吸の場合は呼吸によって内臓がさがらないのですね。だから子宮に影響がない。つまりは体の仕組み上の問題なのです。

だから女性の方は知らない間に胸式になっちゃうのですね。

なので男性のほうが圧倒的に腹式を習得するスピードは速いです。

なぜ、腹式呼吸の方が良いのか?

ここまでは余談でしたけど、では何故腹式呼吸の方が良いのかの話に戻りますね。

別に、正直にいうと腹式呼吸でも胸式呼吸でもいいのです。

ただ、腹式呼吸のほうがメリットが多いからっていうだけです。だから歌う時に絶対に腹式でなきゃだめだよことではないのですよ。

胸式呼吸はやってはいけないというイメージを持たれている方は多いと思いますけどそうではなくて胸式呼吸にもメリットはあるのですね。

では胸式呼吸を日常時に体験できる状況として、例えば100m走って急に止まるとしたら「ハァ…ハァ…」という感じで肩で息をすると思うんですよね。肩で息をすると呼吸をするときに肩が上下するのです。そして30秒とか1分とかすると呼吸が落ち着きますよね。それは腹式に変わっているのです。

あとは例えば、高熱を出したときは「息が浅い」という言い方をしますけどそのときの人の息って「ハァ…ハァ…(弱弱しく)」ってなるじゃないですか。これも肩で息をしているのです。

どういうことかというと胸式呼吸って比較的、緊急時だと私は思っています。要は走ってるときって酸素と二酸化炭素のバランスがくずれていますよね。だからしんどく感じるのです。体がしんどく感じるってことは体がやばい!ってサインを出しているのです。酸素が足りないからもっと酸素いれてよ!って。そして止まったときにいっぱい酸素を取り込もうとするのです。例えばそれが腹式だとすると腹式って肺の下部を使うのですが、口とか鼻など吸うところと肺の下って距離が遠くないですか?

だから大変なのですよ。時間がかかってしまうというイメージが近いかもしれないですね。

なので体は近場を選択するのです。胸式だと息を入れるのが肺の上の方になるので、口や鼻から非常に近いです。肺の横っちょなのでそんなにたくさんの息は入らないけど早いですよね。だから走って止まったときは呼吸回数を多くして(「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ(細かく、速く)」息をし(酸素を取り込んで)落ち着かせるのです。

ちょっと余談ですけど、みなさんが習う深呼吸というのは胸式呼吸なのです。

深いって書くので息も深いイメージで腹式呼吸をイメージすると思うのですけど、例えばラジオ体操に出てくる深呼吸は胸式呼吸なのです。

深呼吸をしてくださいっていうときのポーズをやってみると両腕を真上に挙げているときって内臓が引き上がっているので下がりつらいのです、肺の下に息を入れづらい。

なのでみなさん深呼吸って腹式呼吸のイメージをもたれてたりしますけどほとんどの方が胸式なのですよね。

でも胸式が悪いわけではないです。ラジオ体操って跳んだり、跳ねたり、酸素の量が減っている状態なので、まずちょっとずつ息をいれましょう、落ち着かせましょう、いきなり息を一気にいれたらしんどいよね?ってそんなイメージをもっていただけるといいかと思います。

なので呼吸っていうのは“良い”、“悪い“ではなく使い分けるというイメージをまず持ってもらいたいですね。

腹式呼吸の方が良い2つのポイント

では、なぜ腹式呼吸が良いのかというと一つ目は単に息がたくさん入るっていうことです。

二つ目の重要なポイントしては“重心”という問題です。

人って力をいれないと立てませんよね。全部脱力したら寝ちゃいます(笑)

だから力をかけて立ち上がっているのです。カメラの三脚とかで考えると、三脚の足を高くした場合、重心が高い位置になるので地震などがもし来たとしたら不安定になります。

重心が足首くらいになると安定して揺れに耐えやすくなります。それと同じで人間の体も重心を下げてあげることで息や声が安定するのですね。

これも余談ですけど、クラシックの練習方法で、つま先立ちでそのまま中腰で声出す練習とかしたりするのです。

そうするとふくらはぎとかパンパンになって体を支えるのに足がプルプルします。

それはふくらはぎに力がかかってるので「重心をふくらはぎまで落とす」という言い方をすることもあるのです。

クラシックなんかでいうとポップスなどと違ってマイクを使わないことがほとんどです。そうすると自分の体だけで声を出していかなければいけないので歌う際の重心については厳しいです。

そういう意味でも、重心を下げる方がというのが腹式呼吸にはあるのですけど、普通に息を吐くとき、例えば曇りガラスを作るとき、窓に向かって「ハァ」と息を吹きかけると思うのですけどこれって一瞬で息がなくなりますよね。息っていうのはすごくわがままで支えてくれる存在がいないと体から出ていきたくなるのです(笑)

ボイストレーニングでよくやるのがZで息を出す(スーとズーの間)んですけど、ゆっくり息をはいているときは、肺に100%息が入っていたとしたらゆっくり息を吐けば100%からゆっくり減っていきますよね。ただ減っていった空気を支える存在がいるからゆっくり息を吐けるってことですよね。だから支える存在がないと窓に「ハァ」と息を吹きかけた時のように一瞬で息がなくなってしまうのです。1秒、2秒くらいで息が続かなくってしまう。

歌ってやはり、長くて5秒、6秒ってフレーズがあるので最低でもこの秒数くらいはきれいに息を伸ばす必要があるじゃないですか。息ってさっきも言ったように特性があって、入ってから近いところの支えてくれる存在を求めます。つまり口や鼻から肺に入ったらなるべく近いところの筋肉で支えてもらおうとします。胸式呼吸は肺の上部、横の方に息をいれるので胸筋だったり、肩の筋肉に力をいれて息を支えているのです。

腹式だったら肺の下部なので、前回お話した横隔膜とか腹横筋とか下の内臓を支える筋肉を使って息を支えます。なので肩の方の重心と、お腹の下の重心の2パターンの息の支え方が存在するのです。そうなると腹式呼吸のほうが明らかに重心が低くなりませんか?

胸筋や肩の筋肉に比べるとお腹周りの筋肉は内臓を支える筋肉なので筋肉量が半端ないのですね。なので下半身の方が息を支えやすいのです。

まとめ

息を支えやすく、重心も下がりやすいので腹式呼吸の方がいいのではという話です。

なので胸式で歌ってNGということではなく、人によってどちらが発声しやすいのかもあるし、肺の大きさもあるし、肺活量もあるし、いろいろあるので胸式呼吸が歌いやすいって人もたくさんいらっしゃいます。

言い方は悪いかもしれないですが、絶対に複式でないといけないという「腹式神話」は持たないほうがいいです。

この記事は私が書きました

浦麻紀子。うらまきこ。

大阪府出身。

ボイストレーナー、話し方トレーナー、ビジネスボイスコーチ。日本ボイストレーナー連盟資格認定(JAVCERT)

プロアーティストの仮歌、コーラスサポート、NHKプロフェッショナルの流儀、テレビ朝日系全国ネット『坂上忍の成長マン』ハモり講座の指導などのテレビ出演、名古屋大学大学院医学系での学術集会でのセミナー、豊商事株式会社での電話対応セミナー、など多岐にわたり活動中。

・20年以上に渡りボイストレーニングを指導。

・3000名以上の指導歴。

・シニアインストラクターとしてボーカルトレーナーの育成、指導。

・講師、客室乗務員、面接対策、婚活、企業様向け研修やスクールでの講演。

・コミュニケーション能力向上研修、プレゼン研修。

・メジャーレコード、プロダクションへのプレゼンライブ等。

特に滑舌、表現力、説明力には力を入れている。

自身も3枚のアルバムをリリース。全国20箇所でツアー・ライブを500本以上。

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