【口呼吸・鼻呼吸】歌上達の為にメリット・デメリットを理解する!
前回、「強制的に腹式にしてみましょう」というものをやってみました。
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次は実際によく聞かれることですが「歌うときに息は口から吸うのか、鼻から吸うのか」問題です。
歌うときに息は、口から吸う?鼻から吸う?問題
これはものすごく聞かれることで、答えから言うと「どちらも」が正解になります。
「どちらも」というと「何それ??」と思うかもしれませんが、胸式呼吸と腹式呼吸でお伝えしたときのようにどっちにもメリットがあるということですね。
なので、プロの方は意識的に使い分けていたりします。ただ基本的には、私は息継ぎ(ブレス)では“鼻呼吸”を薦めています。
“鼻呼吸”を薦める理由
なぜ鼻呼吸を薦めるかというと、まず第一に体への負担、特に呼吸器への負担が少ないからなのです。口呼吸をすると、当然口から外気を取り込みますよね?そうするとウイルスや埃(ほこり)もまとめて吸ってしまうのですね。だから乾燥した空気を直接体に入れるので口の粘膜が乾きやすくなります。それこそ皆さん経験あると思うのですけどカラオケに行ったりすると、途中で水飲んだり、飲み物を飲みたくなるのは粘膜が乾いているからなのです。
例えば、プロの方でもなかにはライブ中、2時間、3時間と歌っていてもまったく水分を摂らないというもたくさんいらっしゃいます。それは粘膜が乾いてないということなのです。
乾きがなぜよくないのか
乾きがなぜよくないのかというと、空気を吸って気道の方に送り込みますよね?そのとき気道の道すがらに“声帯”がありますので、乾いた空気が声帯を通るということになります。声帯というのは振動して声になる気管なのです。だからお互いが触れ合って振動するので、摩擦しているようなイメージになります。これはあくまでイメージですが擦りあって音にしているということです。それこそキャンプなどに行ったときに乾いた藁(わら)のようなものを木の板において、その上から木の棒を回して火をおこしたりしますよね。乾いたもの同士で摩擦を発声させて火が発生します。そして冬場の乾燥した時期に火事は起こりやすくなりますよね。ここで言う火事は喉でいうところの「声帯の炎症」になります。火起こし同様にどうしても声帯が乾くと炎症が起こしやすくなってしまうのです。だから飲み物が欲しくなるのです。声帯が炎症すると、声帯がむくんだり、腫れたりします。声帯とは一対の粘膜でできた気管になります。わかりやすく言うと、お箸(はし)のように二つを触れ合わせて、振動させ摩擦して声を出すので、声帯の役割としてはこの摩擦で声を発生させることになります。なので声帯がむくんだり、腫れたりして炎症を起こしているとぷくっと膨らんでいる状態なのでピタッと二つが合わさりません。
なので、頑張らないと声が出しづらいというのはこの状況になっているからなのです。
頑張って、二つの声帯をグッと合わせないと(隙間がない状態を作り出さないと)声が出ない。
むくんだり、腫れたりしていないきれいな状態ならすぐにピタッと声帯が合わさって普通に声が出るのですが。
腫れているラグビーボールのような形状のものを無理やりぴったり全部合わせようとするということは隙間が生まれる声帯の端の方にものすごく力がかかります。なので「喉の変な力み」が生まれるのです。その力みがまた声帯の状態を悪化させたりします。だからできるだけ歌うときは声帯に炎症を起こさせないというのが大前提になるということです。そして炎症させないようにするためには、乾燥をさせないということがまたその前提になります。口呼吸で歌うとダイレクトに乾いた空気を取り込むことになってしまうので、ちょこちょこと水飲みながらでないと喉が乾燥してしまうから歌えないのですね。口呼吸はそういう状況です。
歌うときに息を鼻から吸うメリット
では鼻呼吸はというと、これも皆さん経験あると思いますが、鼻血とか、鼻水とか、言うように鼻腔の奥って「湿地帯」なんです。要はすごく湿っているのですね。なのでそこに空気が通ると湿っているので加湿されるのです。湿度がある空気を声帯に送り込むので、乾燥が大敵である声帯へのダメージというものも弱くなるのです。
寝ている間に口呼吸になったりすること多いと思いますけど、風邪をひきやすくなったり、喉が乾燥したりという今のような理由で悪い面があるのですね。
でも鼻呼吸だと、加湿されている部屋でウイルスが舞いづらいように、正しい数字は申し上げられないのですがある程度何割かはウイルスの侵入を減少させることができるのですね。そういった意味で体にも、喉にも鼻呼吸の方がいいのです。
もうひとつは、鼻呼吸の方がイメージの“齟齬(そご)”や“不一致”が起きづらいということです。例えば、口の方が鼻の穴より大きいですよね?だから口で吸った方が息をたくさん吸えると勘違いしてしまうのですよね。これがなぜ、イメージとの齟齬、不一致が起こるのかというと口の大きさくらい気道が太いかというと当然そうじゃないですよね(笑)
“鼻呼吸” “口呼吸” のイメージとの齟齬、勘違いとは
口から大きく息を吸っても、結局その空気は気道を通って肺に行くので、気道の太さでしか空気は送り込めないのに、口の大きさと気道の太さを比べると圧倒的に口のほうが大きい。
これによって勘違いを起こしやすいのです。たくさん息を吸っているのに、全然ロングトーンが続かないとか。“たくさん吸っているのになんで?”がもうたくさん吸ってないのです(笑)
ただ単に入り口が大きいだけで、結局は気道の太さに比例しないから、そこに渋滞が起きているだけで息は同じ分量でしか入っていきません。そうするとこんなにたくさん息を吸っているのに全然息が続かないという、悪いイメージを持ってしまうのですね。
そうするともっと吸わなきゃと思って、それで力むのです。
ここはロングトーンだからその前にいっぱい吸わなきゃという気持ちもすごくわかるのです。ただ実際は息の入っていく量は変わらないのなら、ちょっとでも喉に負担がかからない、息をきれいに吸える方法をとった方が私は良いのではと考えています。
「閉鼻声」と「開鼻声」鼻声2種類の違い
それこそ、日常生活ってほとんど口呼吸なのです。普段生活しているなかで完全に口が閉じている状態って実はあまりないのです。しゃべっているときも基本口から息をしていますよね。やっぱりそれは息を取り込みやすいからです。わざわざしゃべっているときにいちいち口をしっかり閉じて鼻から息を吸う人はそうそういないですよね。なので、大体の人が日常生活の上では口呼吸になってしまうことが多いです。そうなると鼻呼吸となったときには違和感しかないし、鼻の穴が小さいから息がちゃんと入っていってないイメージを持ってしまうのです。ただそれはイメージなだけです。
ただ鼻呼吸ができない人もいます。例えば鼻(鼻腔)の奥が詰まってしまっている人、蓄膿なんかの人は鼻呼吸で息が入りづらいです。
これは余談ですが、鼻の奥が詰まってしまっている声の人を「閉鼻声(へいびせい)」と言います。なんとなく鼻のつまったような声の方っていらっしゃいますよね?
目の前にくさやなどがあったとして、その匂いを吸わないようにしているときのような声です。(なんか→なんがのような感じ)
これが閉鼻声というものです。
これと対照的に存在するのが、「開鼻声(かいびせい)」になります。
開鼻声というのは鼻が通っている人の鼻声のことです。
このように鼻声といっても2種類あんるんです。例えば、俳優の黒木瞳さん、仲間由紀恵さんとかは開鼻声ですかね。いわゆるちょっと鼻にかかっている声なのに通りのよい声の方っていらっしゃいますよね?そういう方をイメージしてもらえればと思います。
そういった方々はしゃべった言葉が鼻腔を通って、きれいに発音できるのですよね。
ちょっと話がそれましたが。鼻から呼吸をして出す声の人だけでなく、もともと持っている鼻声のなかでも「閉鼻声」と「開鼻声」があるよというお話でした。
鼻声をはっきりと聞かせるための調整も「鼻腔の効果」
話は戻りますが、こういった鼻声をはっきりと聞かせるための調整も「鼻腔の効果」です。歌うときの鼻呼吸もこの鼻腔の効果があって初めてできるようになるのです。
なので、プロの方が風邪気味でもステージに立たなければいけないときは、基本絶対に鼻炎の薬って飲まないのです。なぜかというと、鼻炎の薬は鼻水を止めちゃいます。
さっきの湿地帯の例えのように。止めると鼻からの加湿された息の通りができなくなってしまうのです。鼻水は止まるけれど、鼻呼吸はしづらくなってしまう。逆にそういうときは鼻をかんで、鼻水をだしてしまったほうがいいのです。その方が鼻は通ります。
鼻から吸う”鼻呼吸”のデメリット
このように声帯への負担、息を吸うイメージの齟齬を考えて鼻呼吸を私は薦めています。ただ、慣れないとデメリットもあるのです。
それは「クイックブレス」がしづらいのです。歌のフレーズとフレーズのわずかな間で息つぎをすることですね。最近の曲は言葉数も多いのでかなり多用しますし、重要なスキルです。
息継ぎの時間が短く、それに慣れていないと鼻呼吸で吸ってすぐに吐くというのがやりにくいのですね。これはなぜかというと、口のほうが慣れているし、たくさん息を吸った感じがするので、一瞬でパッと吸って声をバーッと出すのがクイックブレスですがどうしてもフレーズとフレーズのブレスの間隔が短いところはプロの方でも口呼吸の方は多いです。
ちょっとゆっくり息を吸えるところは、鼻を通して息を吸う感じで使い分けたりしています。なので口呼吸には口呼吸のメリットがあるし、鼻呼吸には鼻呼吸のメリットがあるのです。
歌うときの呼吸はどの呼吸がいいというより、それぞれいろいろと役割が決まっているのでこれも腹式呼吸、胸式呼吸のときに話をしましたけど、「自分でいかにどうやってを選択していくか」ということ、それを理解して使うことが一番重要だと私は思っています。
”鼻呼吸”のメリット・デメリットまとめ
ただ、繰り返しになりますが湿った空気を送り込めること(ウイルスや埃もできるだけ吸い込まないこともメリット)、息を取り込むイメージに齟齬が起こらないことから私は鼻呼吸を薦めていますが、なんせ普段の生活で鼻呼吸はなかなかしないのでとにかく鼻呼吸に慣れることが必要になってくるのです。
訓練ももちろんありますが、それこそ週に一回ボイトレに行って歌の練習をしていれば鼻呼吸ができるようになるかと言えばそれはまた別の話です。口呼吸みたいに人がすでに癖になっているものを植え替えるのってどうしても時間がかかるので、まずは鼻呼吸をしっかりマスターしたいという方は「口を閉じる癖」をつけてください。
鼻から吸おうとするのではく、口を閉じる。そうしたら鼻からしか息が吸えないですよね(笑)
例えば、パソコンを触っているとき、スマホを触っているときに口をしっかり閉じている方って実はすごく少ないのです。ちょっとだけやっぱり口は開いている方が多いです。
例えば、しゃべり終えたら口を一回グッと閉じるとか、カラオケで練習するときは歌ってないときはちゃんと閉じる練習をする。だから鼻で呼吸する練習をするのではく、口を閉じる練習をしてみてください。
やってみるとわかりますが、以外とかなり意識しないと閉じられないです。
TV見ているときに口がしっかり閉じている人は少ないですね、ちょっとぼーっと見ているときなんかは自然と口が開いてしまったりしませんか?その時点で口呼吸になっていますよね。ぼーっとしているときはつい口が開いてしまうのです。
余談:アンチエイジングでも鼻呼吸がオススメ
ちなみにアンチエイジングでも鼻呼吸を推奨しています。ピラティスとかヨガとかでもそうです。これはまた別の機会に詳しくお話できればと思いますが、口をぐっと閉じるということは顔の表情筋を使います。口を開けているときはその筋肉がダラッとなっていてまったく使ってないのです。なので顔の筋肉が下がりやすくなります。
このようにアンチエイジングとして鼻呼吸を薦めている美容家の方もけっこういらっしゃいます。
少し話は変わりますが、1mくらいの長いしなやかなゴムのようなものを加えてびよんびよんとさせる運動を見たことないですか?あれも口でギュッと器具を支えます。びよんびよんとさせることでその動きを安定させようとして筋肉を使うことに効果があります。
なので、そういった美容器具があるように普段どれだけしゃべっていても、口を閉じないと使ってない筋肉もありますので鼻呼吸にはこういった美容の観点でもメリットはあります。
これを日々意識付けしていけば、歌うときにわざわざ鼻呼吸を意識することもだんだんとなくなってきます。歌ってないときは、口を閉じよう。歌い始めたら開こう。だけのことなのですが、癖づけるのはなかなか大変だと思います(笑)
これはレッスンではどうすることもできなくて日常生活のなかでちょっとずつ変えていく方法でしか変わらないので、是非鼻呼吸で自然と歌えるようになりたい方は今日からでも日々口を閉じることを意識してみてください。
まとめ
最後にまとめると、比較的普段から鼻呼吸の方は少ないので、まずは鼻呼吸をマスターする。そのために日々口を閉じることから始める。マスターしてから、口呼吸と鼻呼吸のどちらがメリットがあるかを仕組みを理解して使い分ける。人によってどちらが歌うときに息を吸いやすいかもありますし、ブレスのタイミングもありますし、そういうところで使い分けができるようになれれば一番良いかなと思います。ただ本日のお話から私としては、鼻呼吸を薦めていますよというところでご理解いただければうれしいなと思います。
あとは、豆知識としてちょっと風邪気味、鼻声のときでもステージに立つ前、カラオケに行く前には鼻炎カプセルは絶対飲まない(笑)
それこそ、プロを目指している方であれば、憧れの対象であり、皆に真似したいと思われる存在になるということなので、見た目の美しさへの努力、健康は大事です。そういった意味でも鼻呼吸で悪いことは基本ありませんし本当におススメなので日々の癖づけはやってみてください。
この記事は私が書きました。
浦麻紀子。うらまきこ。
大阪府出身。
ボイストレーナー、話し方トレーナー、ビジネスボイスコーチ。日本ボイストレーナー連盟資格認定(JAVCERT)
プロアーティストの仮歌、コーラスサポート、NHKプロフェッショナルの流儀、テレビ朝日系全国ネット『坂上忍の成長マン』ハモり講座の指導などのテレビ出演、名古屋大学大学院医学系での学術集会でのセミナー、豊商事株式会社での電話対応セミナー、など多岐にわたり活動中。
・20年以上に渡りボイストレーニングを指導。
・3000名以上の指導歴。
・シニアインストラクターとしてボーカルトレーナーの育成、指導。
・講師、客室乗務員、面接対策、婚活、企業様向け研修やスクールでの講演。
・コミュニケーション能力向上研修、プレゼン研修。
・メジャーレコード、プロダクションへのプレゼンライブ等。
特に滑舌、表現力、説明力には力を入れている。
自身も3枚のアルバムをリリース。全国20箇所でツアー・ライブを500本以上。