ボイストレーニング「喉を開く」為の舌根を下げる練習方法3ステップ

前回、前々回では“人を感動させる歌”というテクニック的なお話をさせていただきました。

前回の記事を見ていない方はこちら↓

今回からまた基礎に戻りたいと思います。

目次

「喉を開く」その状態と効果とは?

よく、Youtubeとかご覧の方は「喉を開く」という言葉をご覧になったり聞いたりされたことがあるかと思います。今回はこれがどういう状態のことで、どういう効果があるのかというお話です。

「息をしっかり使えることで初めて人が感動できる歌が歌えるんです」ということをお伝えした話ともリンクしてくるんですが「喉を開く」という状態が日常でどんなときにその状態になっているかというとあくびの時とちょと汚い話ですが、嘔吐のときです。

あくびで「喉が開く」仕組み

あくびは酸素を取り入れるため、嘔吐は体にとって異質なものを早く外に出そうとするためです。このような人間の生理現象のときに喉が開いている状態になります。

気持ち悪いものをすべて体外に出したいから、食道や気道を通ってすぐにそれらが出やすいように口の奥を大きく開くんです。ちゃんと一気に吐き出したいので。二日酔いのときなど嘔吐してしまうときって、「オエッ」て吐く感じというより、喉の奥に気持ち悪い力がかかる感じがしませんか?あくびのときも「あーあ」という感じよりももっと喉の奥に力がかかって開く感じがすると思います。

これが歌のときに必要な力なんです。歌うときに喉をしっかり開くことで、腹式呼吸で肺の中にいっぱい取り込んだ空気をきれいに声にして届けるためにその通り道を空けるんです。なのでちゃんと息の流れをキープするために口の奥を開くことを、「喉を開く」と表現するんです。そして100%余すことなく自分の体を使って歌を歌うという意味では喉を開いておいたほうがいいです。そのためにはあくびや嘔吐の時の口の奥が開いて、喉の奥に力がかかっている状態の感覚を覚えておいてほしいんですね。

体の構造上どうなっているか

体の構造上のお話をすると喉頭隆起(一般的にのどぼとけとよばれるところ)が下がって、口蓋垂(こうがいすい:一般的にはのどちんこと呼ばれるところ)が上がります。あくびの時にはそのようになっています。

これを意図的にのどぼとけだけ下げるとします。のどぼとけは二枚の軟骨が重なってできています。上が甲状軟骨、下が輪状軟骨です。この甲状軟骨の奥に声帯があり、声を出すときは声帯が動きます。そして舌の一番奥を『舌根』と言いまして、甲状軟骨とつながっています。なので「のどぼとけを下げる」は「舌根を下げる」と同じ意味だと思ってください。なぜ舌根を下げる必要があるのかというと先ほどお伝えしたように通り道をしっかり確保するためです。ではなぜ、舌根が下がれば通り道が確保できるかというと舌の特性に関係があります。例えば、声が小さい人や滑舌が悪い人など息の通りが悪い人はしゃべっている途中、しゃべり終わった後、下の歯の裏側から舌が絶対離れています。要は口の奥に舌が行ってしまうんです。

口の奥に行くとどうなるかですが、まず通常は舌がどういう状態かというとだらっとした状態です。あごがシャリだとしてその上にお寿司のネタのようにすっと乗っているようなイメージです。

ただ、緊張したり長くしゃべって疲れたりすると舌って後ろにいく習性があるんです。エビの動きのようにすっと後ろに引いてしまうんですね。特に緊張のときは人で言うと「自分はいいです。。。」みたいに消極的になる感じで後ろに引っ込んでしまうんです。緊張すると筋肉は固くなりますよね?舌も筋肉と粘膜でできているので緊張すると後ろに向かってギュッと固まってしまうんです。後ろに固まるということは、舌の後ろに気道や食道が付いているのに後ろに向かって寄ってしまうということなので、当然通り道は狭くなるということですね。なので舌は前に向かってだらっとしているときが一番後ろの通り道が確保できるんですけど、緊張したり、舌の筋肉が固い人は舌が後ろに行ってしまうので通り道が狭くなるという理屈です。要は、本当は片側4車線くらいある道路が1車線になってしまうということです(笑)そうしたらせっかく腹式呼吸で息をしっかり作れたとしてもそこで渋滞を起こしてしまいますよね?それはすごくもったいないですよね。

なので、緊張しているときは喉は閉じやすくなってしまいます。それを回避するために舌根を下げます。舌根を下げることで後ろの空洞、通り道を確保できるので舌根を下げるトレーニングが必要になってくるんです。舌根が下がっているときが一番肺に取り込んだ空気を有効的に外に出せる良い状態だと覚えておいてください。

では、実際にどういう風にトレーニングをするのかをここから説明します。

舌根を下げるトレーニング方法3ステップ

①口を縦に開く

まずある程度の大きさで口を縦に開けてください。そのときに舌を下の歯の裏側に付いている状態にします。

②「nnnn(んーん)」とハミング

このまま軽くハミングする感じで「nnnn(んーん)」と口を開いた状態で言ってください。リップロールと同じように声帯に軽く当たるので音の高さはできるだけ高いほうがいいです。

③「GA(がぁ)」と言う

この状態から「GA(がぁ)」と言ってみてください。このとき大事な条件があります。

一つ目は「口の開ける大きさは変えない」二つ目は「舌の先の位置が下の歯に付いている状態を変えない」を必ず守ってください。

その状態で「GA(がぁ)」と言っていただくと舌の奥が下がる感じがわかると思います。

この方法の理由

「nnnn(んーん)」から「GA(がぁ)」に変えていただいたのは自分でこの下の奥が上がっている状態から一気に下がる感覚を下がり幅の比較で知っていただきかったからです。この比較で「喉が開く」感覚はあくびや嘔吐の状態でなくても意図的に実感いただけるはずです。切り替えたときについ舌が歯の裏から離れてしまう人は舌を指でもっていただければと思います。舌というのはそのくらい性格で言えば、気ままでコントロールがしづらいので。本当に勝手な動きをするんです(笑)なので舌をコントロールできるといい声が出ます。そのための第一段階としてはこの「舌根を下げるトレーニング」がとても効果的なんです。

このときに舌根が下がりづらい人もたくさんいらっしゃると思います。まずは強制的に舌根を下げたいので、下がりづらい人はカレー用のスプーンなどで舌の奥を押してみてください。ちょっと気持ち悪いかもしれないですが「オエっ」てなる手前が一番のどの奥が開いている状態なんです。舌根が下がりづらいなという方も強制的にでも舌根が下がる感覚をこの方法でなら体感できますので、できればちょっと無理してでも舌根が下がる感覚に慣れてほしいですね。

違いを体感し、身体で覚える

つまりは、一番お伝えしたいのは“必要で喉にかかる力”と“喉の力み”の違いをしっかり知っていただきたいということです。力を入れたい時にかけるべき力をかける感覚と方法を知る、そのときちゃんと余計な力は抜いて力まないようにすること、これが声を出すときにものすごく大事なんです。

このように癖づけるということが一番いいのですが、いちいち下の奥が下がっているか鏡を見て確認するのは練習するのに面倒くさいと思いますので手軽にできる方法があります。

舌根が下がっているか確認する手軽な方法

それはあごの下のタプタプした部分があると思いますが、ここを指で軽くさわります

さっきと同じように舌根を下げるトレーニング(んーん→がぁを下が下の歯の裏に付いたまま)をやってみてこの指で触っている部分がカエルように膨らんだらちゃんと舌根が下がっている状態です。このときの条件は口の大きさを変えないも忘れないようにしてくださいね。これで膨らんだことが確認できれば舌根が下がる=のどぼとけも下がっている状態で、しっかりと息の通り道ができていますよということになります。

舌根を下げるトレーニングまとめ

まとめると、

喉を開くには舌根を下げるトレーニング(下の歯の裏に下を付けたまま「ん-ん」から「がぁ」と言ってみる)

ちゃんと下がっているかどうかあごの下の柔らかい部分に指を当ててカエルのように膨らむか確認する。そもそも舌根が下がらないという人はカレー用スプーンなどで舌の奥を押して強制的に舌根を下げてみる(「オェッ」となる手前が一番舌根が下がっている状態)。

全体まとめ

この舌根が下がっている感覚を維持したまま自分の好きなアーティストの歌をワンコーラス歌ってみてください。「がぁ」の状態のままです。この状態が最終的に一番息の通り道が確保できているのでしっかりと息が届いて、歌っていて楽です。なのでこの状態を知って、体が覚えると結果的に歌が上手くなるんです。

だからどこかで歌ってて息が詰まってしまったり、高い音が出ないなって人の多くは舌根が上がっていて声の通り道が狭くなっていると思います。

意外とこれはできてない方は多いですし、そもそもほとんどの方がご存じないので「喉の解放」の状態を知ると「こうやって歌うときって声を出すんだ!これが一番きれいに声が出るんだ!」っておっしゃいます。普段話しているときの喉の開きが一番声が通っている状態で、それに歌を乗せると思っている方が大多数です。ただそうじゃないよということをここでしっかり覚えていただきたいですね。“しゃべり声の地声と、歌うときの地声は違うもの”ということをしっかり理解いただけたら嬉しいです。

大切なポイント

トレーニングとしてはとにかく舌根を下げることを繰り返しやってみて感覚をつかむことです。私が生徒さんに教えるときはもしあくびがそのとき出せるなら、あくびの瞬間に声を出してもらったり、どうしても舌根が下がらないという生徒さんの場合は実際に私が下の奥をスプーンで押したりもします(笑)そうやって舌根が下がる感覚を体で覚えてもらうようにしています。

とにかく舌根を下げるには舌の柔らかさが必要なんです。これがなかなか下がらない人はまた別の記事でお話しますが舌の基礎トレーニングが必要です。舌が固いから舌根が下がらないので舌に特化したトレーニングというものもあるんです。

それこそ前回お話した50音のトレーニングでも舌は柔らかくなります。舌を柔らかくすることで舌根が下がるので上手く歌を歌うためには舌の柔らかさは必要不可欠になります。

もう一つの方法:口蓋垂を上げる

このように舌根をしっかり下げることで息の通り道をしっかり確保するということが喉を開く方法とお伝えしましたが、もうひとつ口蓋垂(こうがいすい:一般的にはのどちんこと呼ばれるところ)を上げるという方法があります。

これはあくびをすれば口蓋垂は上がるので、あくびの時に力がかかる場所のイメージが重要です。上あごの一番奥を指で触ってみてください。ちょっとぷにっと柔らかい部分があると思います。ここを『軟口蓋(なんこうがい)』と言います。ここの奥に口蓋垂があるのでこの軟口蓋が上がります。よくYoutubeや教材でもよく「軟口蓋を上げましょう」と言っていたり、載っていたりします。これは口蓋垂を上げることと同じ意味合いです。

口の一番奥のななめ上に口蓋垂がついていますよね?なので、その口蓋垂の方に意識を向けて声を出してください。前に向けて声を出そうとすると口蓋垂が下がってしまいます。

軟口蓋に向かって声を出そうとしたら、そこに意識を全集中すると思います。そこに声を乗せていくんです。だからあくびのときの声って「あ~あ」ではなく「あ~あ(「あ」に濁点のイメージ)」になりますよね?そのとき声が口の中に引っ張られる感じがしませんか?これは喉の奥が開いているからこういう声になるんです。

最初に練習段階で出してほしい声はこの「あくびの声」なんです。この声をちゃんとトリートメントしていくとテノールの声になるんですね。これに50音を入れてみてください。

実践!!

試しに前回の記事で登場した今井美樹さんの『PRIDE』の出だしを歌ってみてください。

とてもふくよかで綺麗な響きのある歌になると思います。最初はこのように喉の奥を開いて“美しい声”がどういうものか知っていただきたいんです。まずは綺麗に通る声を作ってから、自分の個性を出していくという順番でアイデンティティを持った声になっていくんです。つまり自分の声の個性をしっかり出すためにもまずは自分のポテンシャルを最大限に使った綺麗な声を出すことが必要になるということです。

究極を言えばピカソと同じです。模写も本当はとんでもなく上手いし、絵に必要な構図も完全に理解しているからこそ晩年のような一見落書きのようにも見えなくもないような絵が個性になり、人を魅了することができるんです。つまりは基礎が完全にできているからどこまで崩していいかのバランスがわかります。

シャウトの例

例えば、ちゃんとした基礎ができてからのシャウトとそうでないシャウトでは全然違います。

シャウトもすごく誤解を持たれやすいですが喉では出していません。大体基礎ができていない人はシャウトを喉で出しています。そうすると喉を潰してしまいます。

びっくりする方もいらっしゃると思いますが実はシャウトは『鼻』で出すんです(笑)なのでB‘zの稲葉さんなどはあれだけのシャウトを何度しても喉がつぶれないんです。

これもまたいずれお話できると思いますが、そもそも基礎以前に勘違いで声を出してしまっている方も多くいらっしゃいます。

なので、みなさんには最初にちゃんとした基礎をまず身につけていただくことで、崩れていても“美しい崩れ”になると思って基礎を学んでいただきたいと思います。

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