憧れの声を手に入れるためにまずは正しい歌声を知ろう!
前回、あくびのときの声が歌うときの理想の声に変わっていくというお話をさせていただきましたが、急にあくびを出してくださいと言っても即座に出せる方と出せない方がいらっしゃいます。
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歌うときの「脱力」を理解する
具体的なシチュエーションの声としてイメージしていただきたいのはあくびのときか、嘔吐のときか、あとは熱々のたこやきを口に頬張ったときです(笑)この三つでイメージを持っていただきたいです。
なにかを吐いてしまうときの「オェッ」となる、ただ吐くというより、喉の奥に力がかかったときのあの感じ。あの力のかかり方が歌うときに必要というお話は前回もさせていただきました。
どうしても喉声にならないように首から上の脱力ばかり意識して練習される方がよくいらっしゃいます。脱力というのはいらない力みを取るのが脱力であって、本当にすべての力を脱力してしまったら歌うのに必要な力もゼロになってしまいます。まず力を抜くことと、いらない力みを取ることは違うということをちゃんとわかっていただくことが大事なんです。
必要な「力」と「力み」の違い
これは「歌うときはお腹にしか力をいれたらいけない」ではありません。本来必要な力まで抜けてしまったら意味がないんです。この「力」と「力み」の違いがわからなくなってしまう人が非常に多いです。なので、この時の力は「力み」なのか?「力」なのか?ということを理解して歌わないと、喉が痛くなったり、声が枯れたり、声のハリがなくなったりしてしまうんです。この二つの感覚の違いを取り違えると本当に大変で、由々しき問題です。
もちろん首から上というのは声の通り道になるので、しっかりと開いておく必要があるんですけど、開くための「力」は必要ということですね。ただ実際は間違って通り道を閉じてしまう「力み」が発生してしまう。必要な力と力みの違いをしっかり分けて理解していただきたいと思います。
ハフハフトレーニングで理想の歌声を体感
普段から「さぁやってみよう」みたいにあくびや嘔吐はできるものでもないので私が考えた結果一番いいと思っているのは熱々のたこ焼きやおでんを口に放り込むという方法です(笑)もちろん猫舌の方だったり、個人差もありますし、やけどの恐れもあるのでしっかり自分のなかで口の中をやけどしない熱さにする必要はあります。そこは先にお伝えさせていただきます。
なぜこれが一番いいのかというと、例えば恋人とたこ焼きを食べに行ったときに思いのほか熱かったとしても一回口に入れたら出せないですよね?そういうとき人はどうするかというと口の中でたこ焼きを冷まそうとします。口の奥としてはいきなり外から熱々の物体が口に入ってきたので体の防衛反応として、粘膜と粘膜がぶつからないように口の奥を思いっきり広げるんです。
熱々のものを食べたときの声って、こう「ハフッ、ハフッ」となりますよね。実はこのときあくびと同じ声、状態になっているんです。なぜ口の奥が開くのかはイメージしていただくとわかると思いますが、息で冷ますのに息がしっかりと通らなければいけないので、気道が開きます。こうやって口の中で息を吹きかけてなんとか冷まそうとするんです。このときは誰しもが喉の奥が開いています。そうでないと口の中をやけどしてしまうので。
そして、このときにあくびや、嘔吐したときと同じように喉の奥に力がかかるんです。私はこれを「ハフハフトレーニング」と呼んでいますけど、あくびや嘔吐よりこの熱いものを口に含んだ時の感覚を覚えるほうがいいと思っています。なぜなら“しっかりと息を出そうとしている”からです。
あくびのときは息を吸っていますし、嘔吐はいらないものを体外に出そうとしているだけなので、息を出している感覚はないと思います。ただこの「ハフハフ」しているときは自ら冷まそうとして息を出していますよね。そして何も考えなくともこのときお腹はものすごく動いています。ちなみにお腹とはみぞおちから舌、おへそから上の部分のことです。
そしてこの熱々のものを食べたときの「ハフハフ」の息に軽く声を乗せてみます。
熱々のものを口に入れた後に、「おいひぃ(おいしい)」と言ったりすることもありますよね。この感じでソルフェージュ(ドレミレドのように音階を歌う)してみます。
口のなかで熱いものを冷ますときは、口の中で息を回して(循環させて)いますので体は外に息を出そうとは絶対しません。息を外に出してしまったらものが冷めないので。
この口の中で息を回すイメージが歌うときに必要なんです。外に息を出そうとすると「ハァ、ハァ」という息の音になると思いますが、息を中にいれようとすると「ハフッ、ハフッ」になると思います。
このように口の中に熱いものをいれたときは息が口の中に向かって流れ、喉も開いていて歌うときの最適な状態に近いということになります。
熱いものをいれるときは自分の口の大きさに対してできるだけギリギリの大きさのものをいれるとよりいいです。そうすると、口の奥が縦に大きく開きます。
この状態が一番声の通りが良い状態だということをくれぐれもやけどには細心の注意を払っていただいたうえで一度体感して感覚として覚えていただければと思います。
これは本当におすすめです。
そしてこのハフハフトレーニングをするとすごく細かくお腹(みぞおちから下、おへそより上)が動くと先ほどお伝えしましたが、この延長線上にあるのが「横隔膜」のビブラートになります。なのでビブラートのトレーニングにもなるので一石二鳥と言わず、何鳥にもなるトレーニングなんです(笑)
地声だろうが、裏声だろうが何にも考えなくて大丈夫です。ただハフハフした状態で声を出すだけです。
試しにハフハフの細かいスタッカートから徐々に「ハッハッハッハッハ~♪」と少し音を伸ばして、これにいろんな高さの音を乗せてみてください。いわゆる皆さんがイメージする綺麗な発声練習になります(笑)
歌声としゃべり声はまったくの別物
このように日常のなかに存在するシチュエーションに置き換えると理解しやすいですよね。体験を通した理解があると、そのあとにこの時に使っているのは「○○筋だよ」という専門的な説明もすっと入ってきます。
例えば「チェストボイスを出すときは“胸骨甲状筋“を使います”と言われてもピンとこないと思います。専門的な話は後回しにして、どの部分を使っているかを日常のシチュエーションで覚えてから後で知識や理屈と結び付けていけばいいと私は思っています。
また改めて詳しく説明できればと思いますが、この胸骨甲状筋というのは喉ぼとけの周りについている筋肉です。ここを使うと話し声や歌を地声で出すときに一番ふくらみがあって、深みがある声が出るんです。普段なんの意識もせずお友達とおしゃべりしているときは甲状舌骨筋という筋肉を使っています。これは話声でも歌声でもなく“しゃべり声”になります。地声と言ってもこのように種類があります。何の意識もしないしゃべり声の状態では一番普段から使っている筋肉を自然に使っています。わざわざ意識的に筋肉を使ったりはしません。ただ歌ったり、しっかり話すときは声にふくらみをつけたり、ボリュームをコントロールしないといけないので逆にしゃべり声で使う筋肉は一切使いません。ここは同じ地声でも混同しないようにしないといけません。
無理な声真似で高い声を出すのは避ける
さきほどのハフハフトレーニングに少しもどります。しゃべり声はあくびのときの声ではないですよね。普段の自分のしゃべり声はなんとなくみなさん自分でイメージできると思います。違和感があってもこのハフハフしているときの声が本来の話声、歌声の正解ということをまず理解してください。繰り返しになりますが、この思いっきり口の奥を縦に開いている状態が一番いい声が出る状態になります。
普段の自分に聞こえている声や、自分の声の好きな響きとギャップがあっても気にしないでください。そこから響きなど声に装飾を付けていくのは応用になります。明るめのトーンで声をだしたいとか、ハリのある地声を出したいとか、B‘zの稲葉さんのような高い声を出したいなど皆様それぞれにあると思いますが、ハフハフの喉の状態で声が出せる基礎があって、そのうえでどこの筋肉を使って、口の奥の開き方をどういう風に変えればというところで、そういった皆様それぞれが出したい声になるのだと思ってください。なので正しい声だと言われて違和感を感じるかもしれませんが、絶対にこのハフハフの声の出し方は習得いただきたいと思います。
つまりあこがれている方の声に近づくためにもまずはこの正しい声の出し方をしっかりと学んでいただきたいということです。
例えば、この基礎理解、喉の解放のトレーニングを飛ばして、B‘zの稲葉さんやMr.Childrenの桜井さんの歌を歌ったとします。そうすると原理がわかってないのでなんとなくの声真似になってしまうんです。そうすると彼らのような周波数の高くて、鋭い声というのはミックスボイスを使って鼻の奥を響かせるんですけど、そういうことを何もわかってないままただ単に声真似で声を出そうとする100%喉を傷めてしまいます。
喉が強い人だとある程度はそういった声もでてしまいます。ただ、柔軟性をもって音を移動したり、それ以上の音の高い音を出したいとか、もう少しここは柔らかくだしたいなどの応用は全く効きません。なので、声は出ているからと、そのままそれが癖づいてしまうとその癖を取るのにものすごく時間がかかってしまうので無理な声真似で高い声を出すのは歌が上手くなるという目標においては避けていただくほうがよいです。
応用のためには基礎が重要
以前にもお話しましたが利き手を使ってボールペンで書くことは何にも意識しなくてもできます。でもこれは赤ちゃんとして生まれたときから書けたわけではないです。どこかで必ず練習する過程があって、今はどこの力を入れて、どこの力を抜けば字が書けるのかもわかっています。
手の全部に力がはいっていたら字は書けませんし、手の全部の力が抜けていたらそもそもペンを持てません。腕の筋肉、肩の力は抜く、人差し指にちょっと力をかけて親指は添える程度のように。これがわかっているから字が書けます。これが先ほどお伝えした“力”と“力み”の違いです。必要な力を入れて、いらない力を抜いているから字が書ける。「利き手の逆で今すぐ綺麗に字を書いてください」と言われても大半の方が書けないと思います。
どこに力をいれていいかわからず、余計な力みが必ず発生するはずです。
利き手で小さいころから字を書いてきているので、一年前は字が書けたけど今は字が書けないなんてことはないですよね(笑)これは完全に長い年月で癖づいて、体が筋肉運動として覚えているんです。このように時間をかけて歌うということに対して正しい癖に植え替えていくことがボイストレーニングなんです。
字もそうですし、自転車なんかもそうだと思います。一回書けたら、乗れたら、できるようになったことはそうそう忘れません。
なので、回り道のようで一番の近道なんです。正しい癖をちゃんと植え付けることで応用が効くようなり、応用もすぐに習得できるようになります。応用から入ると基礎ができていないのでできるようになってもそれしかできなくなってしまいます。そうすると新しい歌い方や表現が必要になったらその都度一からやり直すことになり結果的に遠回りになり時間の無駄になってしまうのはもったいないです。
まず、時間をかけて正しい方法で体の筋肉に癖をつけてあげることが、のちのち自分の思い通りの声を出すための基本になる、この記事はその第一歩だと思っていただければ幸いです。