「息」が大事な理由とは?歌が上手い・感動する歌の共通点から解説!
今回はきっと多くの方が知りたいと思ってらっしゃる“歌がうまい人”について深堀したいなと思います。
歌が上手い人、感動する歌の正体とは?
これは私の見解なので賛否はそれぞれあると思うんですけど、私が考察するに歌が上手い人、感動する歌が歌える人に共通するもの、それはずばり“息”です。感動って感情が動くので「感動」ですよね?感情が動くことって日常生活の中にいっぱいあります。
例えば何かプレゼントを頂いてすごく嬉しかったとか、ちょっと怒らせちゃったとか、人の感情が動く瞬間っていうのはたくさんあるんですね。
ここから人間の話になりますが、人間は生きていますよね?「生きている人」が何をしているかというと息をして、呼吸をしています。だから呼吸をしているものに対して“生きている“という認識を人は持つんです。これがまず根本にあると思ってください。
「息」は生命力
息の流れをすごく感じやすい人、歌っていても息感が強い人っていうのは「生きている感じ」がすごくするんです。つまりは生命力を感じるのですね。
例えばボイスサンプルで作ったボーカロイドみたいな声は、機械ですごく難しい音程もぱぱっと歌えるというインスタントさが魅力だったりしますが、じゃあそれそのものに生きている感じがするか、感動するかと言われたらそうじゃない、どちらかというとあれは技術的にすごいから感動するだけの話だと私は思います。
息にまつわる慣用句とは
人が感動するものって息を感じるかどうかという部分で一つ説得力になるのではと思いますが、息にまつわる慣用句というのは非常に多いんですね。
息を呑むとか、息をひそめるとか、息を荒げるとかって、人の感情を表す慣用句に「息」って非常に多いです。例えば小さい子がスーパーのレジ前でお母さんやお父さんにおねだりするとき、買って貰えなかったとき 感情はむき出しですよね。「(息を荒げ)これ、これ買ってほしかったのにぃぃ(息がひきつる)」のようになります。
しかもブレスのタイミングなんか何も考えてないですよね?「これ(息)すごく(泣)欲し(泣)かったのにぃぃ」のように。
このようにブレスのタイミングを文節の間に挟んだりすると人は感情的に聞こえるんです。
お手本「宇多田ヒカルさん」から学ぶ
そして、これを私が上手に使ってらっしゃるなって思う方は宇多田ヒカルさんです。
宇多田さんのAutomaticという曲の出だしです。例えば文節的にアーティキュレーションでいうと「7回目の」が文節になりますよね。
要はそこは繋いだ方がいいですよね?言葉的には。「7回目のベルで受話器を取った君」のように。
しかし彼女の歌は「なーな、かいめの、ベー、ルで」のようにこんなとこで切る?ってところで切るんです。
0:22あたり
しかも息感がすごく乗ってるからすごく感情的に聞こえるんです。
人を感動させる歌は子供を手本に!
人を感動させる歌を歌いたい方は子供を手本にしてみてください。
子供って邪気がないんで、嫌な時は嫌って感情が出せるし、嬉しいときは嬉しいって感情が出せるんです。例えば子供の高い声とかって凄く興奮してるように聞こえます。
高い周波数のものって興奮しているように聞こえるんです。
高い声って熱量みたいなものに結構置き換えられることがありますよね?
もちろん高い周波数のものって人の耳に残りやすいです。では何故人の耳に残りやすいかというと、皆生まれてから同じような経過をたどりますよね、幼少期がまずあって。
間違いなく全世界で子供の声は高いです。この国だけ子供の声がすごく低いってことはないですよね(笑)子供の声は高い、そして、子供は感情の生き物ですから感情的に聞こえる。だから 高い音って感情に訴えかけるように聞こえるんです。
つまり、よく言う“感情をのせる”っていうのは歌詞に気持ちをのせるとかそういうことじゃないんです。その前にもっと大事なことがあるってことですね。
「感動する歌」の前にリップロールは感情を一定に乗せる前段階の練習
私がこの「感動する歌」の前にリップロールをテーマにした理由はまさにそこなんです。ちゃんと息を一定に乗せるっていうのは感情を一定に乗せる前段階の練習になります。だからしゃべり声のまま歌っちゃうと自分がちゃんと声が流せているかどうか分からないまま声を出していることになります。
「人に感動を届けるように息を使えているかどうか」っていうところが大事なんです。だから呼吸、呼吸って私が毎回うるさく言っているのはそこなんです。
例えば慰めたい時って、「(軽い感じで)大丈夫だって~」ってこんな言い方しませんよね?「(落ち着いた声で)大丈夫だよ」って。このように息をしっかり感じると安心したりほっとしたりしますよね。これって息を感じるからそう思えると思いませんか?
まさに息使いによってその本気度が伝わるからですよね。
例えば色んな技法があるんですけれども、感情的に聞こえる歌の技法をひとつご紹介します。どんな技法かというと、
語尾をスパッと切っちゃうんです。息が荒くなる時、例えば喧嘩とかして興奮して喋るときに語尾が荒くなるような感じです。私なら「ちゃうやんか!」って。こうすると息が乗ります。これが歌のときの技法になるんです。
例えばMISIAさんとか、Superflyの越智さんとか福原美穂さんとかKingGnuの井口さんとかもそうですけど、一般的に実力派とか歌が上手いと言われる人っていうのはこういった技法をよく使うんです。他にも例えば「あ~」で終わるんではなくて「あ~~」と息を乗せる。この息があるかどうかだけで雰囲気がガラっと変わるんですね。
でもこれって冷静に考えるとただの技法なんです。ただそれを人が聴いて何で感動するのかって考えたら、結局は息をしているからに行きつくんです。
興奮している時に日常的に自分がどういう風に息を出しているかっていうことを歌に乗せているだけなんですね。なので日常生活の中で自分がどうやって息を使っているのか?どうやって喋っているのか?を考えながら歌うだけでも、変な言い方すると感動出来る歌に近づきます。
息を使う体を作っておくのが大事なこと
とにかく息です。まとめると、要は人を感動させる歌を歌うためにはいっぱい息を使えるかどうかっていうのにかかってるんですね。ちゃんといっぱい息が入るところで息をしてほしいし、綺麗に流したい時は綺麗に流す。荒々しく切るときは荒々しく切れるような体を作っておくっていうのが一番感動を届けるのに大事なことです。
だから“なんか歌が上手いな”で終わる人と、“この人の歌は感動するな”ってう人の差がこの息の使い方ですね。
さすがに例に誰かを出せないですけどなんか上手いなって人は、綺麗に音は当たっていて綺麗に歌えてるだけだったりします。それだと上手いなで終わっちゃうんです。
余談:「上手い」とは
上手いとは思います。でも感動しますか?って話なんです。プロでもそういう方はたまにいらっしゃいます。ものすごく音は当たっていて上手く歌われるんですけど、息感がないんですね。
どうしても上手だなとか、凄いなで終わっちゃう。逆に正直ものすごくピッチがいいかというとはそうは思えないし、音はわりと外されてますが、それがどうでもいいと思えるぐらいの息をしっかりと乗せて声を出してるから歌を聴くと感動するアーティストさんもいらっしゃいます。だからピッチがいい、悪いって人の耳には実はそこまで届かないんです。その前に感動しちゃうから。感動の方が優先的に伝わります。
カラオケで採点を取るためだけの歌い方を採点歌いって私たちは言ったりします。もちろんそれを目的として楽しまれる方、100点を取りたいって方もいらっしゃるので、その歌い方が悪いとは言いません。ただ感動を与えるとは別のベクトルなんです。
歌が好き、歌が上手くなりたいということは一緒でも、人に伝えたくて歌いたい人と、何かしらの目標を設定してそれ達成したい人がいると思います。そこに関しては両方の楽しみがあるからどっちがいいとかじゃないんです。ただ採点歌いで頑張っている人たちも感動する歌は「息」なんだということを知った方が楽しいと思います。だんだん採点歌いから人に伝える歌に移行していくっていう事もいいと思うんですよね。
アーティストさんの歌を聴いて息をどこでどんな風に使っているかに集中して歌を聴くのも面白いと思います。
どうしても一番最初に入ってくるのってその人の声と歌詞とメロディーじゃないですか、日本って。皆さんがよくご存じだったら百人一首とか。ああいう和歌が日本の歌の起源になりますので、どうしても節回しに重きを置きます。リズムじゃなくて、節なんです。「秋の田の刈穂の稲の~」ってこう必ず決まった節があります。この節が違うと気持ち悪くないですか?「秋の田の~(音が下がる)」とはいいません。
ただこれにリズムはないですよね?「秋の田の~♪」みたいにリズムからは入らないので日本人がリズムに弱いって言われるのはそこなんです。最初に節を聞いちゃうクセ、要はDNAですよね。
またリズムについては別の記事でしっかりお話したいと思います。
まとめ
話をもう一度息に戻しますね。
このように息を上手く使えるかどうかっていうのは感動する歌の鍵になります。
プロのアーティストの方でも、例えばブレスの音だけを抽出してあえてレコーディングの時に入れる人もいるくらいです。
例えばAメロとかだったら割と最近だとイントロなしで息から入る曲とかあるじゃないですか。King Gnuさんの白日とか。
別録りで息を入れ込んだりするアーティストの方も多いです。息感を出したいから。普通に綺麗には歌えるけど綺麗を目的としているのか、躍動的なものを目的としているのかという意味合いですよね。それこそ先ほども例に出しましたけど宇多田ヒカルさんなんていうのはブレスの音がすごく聞こえますよね。スピーカーにはりつくような。だからこそすごく感情的に聴こえたり、近くで歌っているように聞こえる。なのであの感じで「7回目のベルで~♪」って聞こえますよね。これがブレスが全くないとただ切っているだけになる。だからブレスが入ることで感情的に聞えるので後でブレスを放り込むアーティストさんも多いんです。
上手くなるためにアンテナを張る
なのでこういう上手い息の使い方っていうのは精査して考えるっていうよりかは
日常生活の中にヒントが必ず落ちているんです。アンテナを張れるどうかの問題ですね。
プロの方がその領域に必然的に自ら到達しているのか、プロデューサーからの要望なのか、過程やきっかけはアーティストの方それぞれかと思いますがきっとそういう感じで普段からアンテナを張ってらっしゃると思います。
感情の正体
こういう言い方をすると身も蓋もない部分もありますが私は感情は理論で収まると思っています。ちゃんと具現化できるんです。今回の話がそれを物語っていますよね。要は怒ってる時ってどう怒ってるとか、悲しんでる時自分の体がどうなってるか考えることはなかなかないですよね。それを考えるのが私たちの仕事なんです。
「泣いているときにはこういう息使いになりますよね?だからこのような息を歌の間に入れるとちょっと泣きの入った感じになったり凄く感情的に聞こえたりします」のように理論で説明しなければいけません。だから例えば美空ひばりさんなどそうですけどお酒の歌を歌われた時とかさめざめと泣かれる。あの時に余計な息は入らないんですね。人は淡々とさめざめと泣いている時って呼吸が浅くなって止まりやすいのでスーッと涙が落ちますよね。だから淡々と歌ってるときに涙を流すとグッと感情を持っていかれるんですね。こうやって自分の日常生活の中に起きている出来事を精査して具現化して理論化して「感情に戻してあげる」ということをしているんです。
なので感情を爆発させる目的でただ大きな声を出している人は勘違いしてらっしゃるのでもったいないです。爆発のさせ方を精査してからもっとちゃんと爆発させると威力のある爆発物になるんです。
なので私が腹式呼吸が大事だよ、リップロールが大事だよと言っているのも息の流れをしっかりと作っていただくことは最終的に人を感動させたり、自分が納得のいく歌を歌うための事前準備だからなんです。ただ単に声が大きくなるから腹式発声・腹式呼吸じゃないんです。全部ここまでのお話やトレーニングが今回のテーマに繋がっています。
いま一度人が感動するために「息」が大事ということを念頭に置いてこれまでの記事やトレーニングを振り返っていただけたら嬉しいですね。いよいよ次回からは息についての準備が整ったというところで「声」というものをどう作っていくかというお話に入っていければと思いますので楽しみにしていてください。